07.僕が死んだら、泣いてほしい




以来、終南山は玉柱洞に、清虚道徳心君もまた入り浸るようになった。
それまでと変わらず、時には雑談をし、時には実験に集中している雲中子の姿に、太乙は幾ばくか寂しさを覚える。
――きっと私がここから居なくなっても、雲中子は変わらないんだろうね。
そんな事を考えていたせいか、気がつくと実験をする手が止まっていた。
「どうかしたの、太乙?」
気づいた雲中子に声をかけられて、漸く太乙は我に返った。
実験室の正面では、硝子製の壁越しに、道徳がスクワットをしている姿が見て取れる。
「私の方の実験は、一区切りついたよ――そろそろ三時になるし、集中できないようなら、休息がてら、お茶でもしようか?」
道徳が来るようになって、雲中子が変わった事はただ一つだけだ。
以前は、太乙が疲労をためている時に、それこそ不定期に茶の時間を設けていたのが、今では毎日午後三時にお茶をするようになっている。
――恐らく、道徳に気を遣っての事なのだろう。
このようにしてささやかに、雲中子は皆に気を遣ってくれるのだと、太乙はここ数百年間の間に知った気がしていた。
それでもまだまだ雲中子の事は分からない事ばかりだった。

それもそのはずだ。

雲中子自身が、自分の事をよく分かっていなかったのだから。

「ねぇ、雲中子」
「なんだい?」
「僕が死んだら、泣いてくれる?」
太乙の不意の言葉に、雲中子が腕を組んだ。
「正直分からないよ。その時になってみないとね」
淡々と雲中子が続けると、太乙が微苦笑した。
「僕が死んだら、泣いてほしい」
はっきりと断言したその言葉に、雲中子が細く息をつく。
「多分、泣かないと思うよ」
「どうして泣いてくれないの?」
「君を死なせはしないから。必ず私が治療してみせるよ、どんな症状であれ状態であれ」
そう告げて口角を持ち上げた雲中子は、ニヤリと笑ったのだった。